29・1・1 光通信の進展

もともと,人間と人間とのコミュニケーションは,五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)の中でも,光波と音波を使った非接触型の耳と目と口を主に活用してなされている.その意味では,光通信は,動物が生まれながらに有している機能の一つといえる.1876年に電話を発明したグラハム・ベルも,光で情報をやりとりするフォトフォーンを考案したりしているように,光波に意図的に情報を載せて通信をおこなうことが念頭にあったと思われるが,実用になったのは,電線を用いた有線による電話であった.その後,マルコーニによって,1901年に電波を使った初めての大西洋横断の通信に成功するなど,電波による通信が大きな進展を遂げた.有線の電話方式と組み合わせて,世界を結ぶ電話中継システムが構築されていった.

20世紀になってからは,電話の普及とともに,より遠くに多くの人の情報を高品質で効率良く送るために,大容量の通信システムの研究開発が進んだ.トランジスタの発明などエレクトロニクスの進展とデジタル技術により品質の高い通信を遠くまで伝えることへの期待が高まってきた.1970年代に主流であった同軸伝送方式は,容量の増大とともに中継間隔の短縮が避けられなかった.当時の最大の容量を持つDC-400M方式では最大中継間隔は1.5 kmとなり,マンホールに多くの中継器を収容することになった.一方で,無線方式ではアナログ方式ではあるもののC-60M方式は4倍以上の容量と中継間隔は50 kmを超えていた.

そのような状況の中で,1966年にチャールズ・カオが,ガラスによるファイバで長距離の光通信が可能であることを提言し,1970年には,コーニング社より,CVD(chemical vapor deposition)法を用いて20 dB/kmという当時では画期的な低損失ファイバが発表された.さらに,同年にベル研ではA1GaAs二重ヘテロ構造の考案により,0.85 umでの室混連続発信に成功した.これらの成功により光ファイバによる高品質で大答量・中継距離の長い光通信システムの実現への期待が世界的に高まった.多くの研究成果の後,1984年には,単一モードファイバによる長波長帯(1.3 μm)を用いた400 Mbit/sの大容量方式が,日本縦断システムとして完成を迎えた.その後,1.5 μmの通信波長帯の活用により,無線方式を超える80 kmの中継間隔を実現して,局舎ビルにのみ中継器を設置するだけで,中継システムを構築することができるようになり,保守性にも優れた経済的なシステムを可能とした.近年,電気インタフェースは,10 Gbit/sに達し,光増幅と波長多重技術により,ファイバ心線当りの伝送容量は,同じ80 kmの中継間隔を保ちながら,ほほ1 Tbit/s(80 波×10 Gbit/s)に達している(図29・1).

図29・1

前述の幹線系の展開に加えて,エンドエンドの広帯域性を確保するために,アクセス系の高速化・光化が80年代後半から始まり,2000年には,家庭まで,光がつながるFTTH(fiber to the home)が始まった.既存のメタリックケーブルやCATV用の同軸ケーブルを用いて10 Mbit/sクラスの高速アクセスが広汎に利用されているうえに,FTTHを用いたブロードバンドアクセス系による高付加サービスが始まっており,トラヒックは飛躍的飛躍的に増大することになる.このように多様な種別と大容量のトラヒックを効率的にかつ,必要な品質を保ちながらネットワークを構築するために,広帯域な伝送路を波長のパスにのせて,切り替えてやるフォトニックネットワークの活用が始まっている.いわば,ポイントとポイントを結んだ光のリンク技術が,面的なコネクションを持つ,リングネットワークやメッシュネットワークを構築する重要なシステム技術に発展することが期待されている.

29・1・2 光通信の原理と特徴と構成要素

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