異なった構想を持ったGapontsevと植田
BellSouthとビジネス関係を構築して米国に上陸したIPGはファイバー増幅器の開発では Bell研究所(Lucent)と技術協力してきたので、基本的に光通信用ファイバーレーザー技術を基本としていました。そこで右のようにファイバー結合型LDをクラッド部に多数結合して単一モードファイバーを高出力化する技術を中心に、1 kWユニットを開発して、それ以上はそのユニットをマルチモードファイバーに合流させる戦略を主張していた。しかし、当初のファイバー融着技術では、専門の研究者が注意深く融着させれば性能が発揮できたが、いわゆる工場ベースで女工さんが融着して、その性能が保証できるものではなかった。何しろ、当時はファイバー結合型LDの出力は1 W程度で、1 kWファイバーレーザーのためには、最低でも2000本の励起用ファイバーを融着する必要があった。植田はアポロ計画を例に出し、わずかなエラー確率も膨大な数の融着をさせるようになると、失敗確率が高くなり、うまくいかないと将来を予測した。半導体技術とガラス融着技術は同じように高信頼性を確保するのが難しいと考えたからである。そのため、植田は当時高出力化に成功していたLDバーから直接励起光を注入可能なファイバーディスクレーザーを提案していた。それに対して、Gapontsevは、いやガラスファイバー融着もロボットか技術を開発すれば、電子技術と同じように大量生産が可能になる、と主張し、その後の実績を見ると、それを実現して見せた。さらに単一ストライプLDの出力を20 Wレベルに持ち上げることで、融着本数を削減するなど、技術的問題は技術的解決をさせるという思想で解決した。この点ではGapontsev は見事だったといえるし、他のファイバーレーザーメーカが及ばないところであろう。
それに対して植田は異なったアプローチで高出力ファイバーレーザーを見ていた。ファイバーレーザーは自由形状の固体レーザーであって、励起光とレーザー発振の間に位相整合は必要ない。エネルギーを受け取れば良いのであって、本来はもっとの広い面積から励起 光を受け取るべきである。クラッド励起はコア励起より断面積が拡大したとはいえ、大きく見れば端面励起の一種である。ファイバーレーザーが最も大きく外界と接している面積はファイバーの側面積であり、励起限界は側面励起から決まるに違いない。もちろん、出力限界はコア断面積が決定するが、それは別の拡大則である。図にあるように、内面の反射率が100%である励起空洞を考えると、小さな入力孔から入った励起光は空洞内の吸収物質で吸収されない限り、無限に空洞内を走り回っている。ここでは入射光の大きさは無限に小さいとして入射光から流出する光のエネルギーは無視できるとする。そのような励起空洞の中にファイバーレーザーを挿入すれば、励起光は結局ファイバーレーザーのコアで吸収される以外にないわけだから、すべての励起エネルギーはファイバーレーザーの励起に使われる。どんな励起をしようとも、出力はファイバー端面からの出力となることに変わりはない。これがファイバーレーザーの強みといえる。この図ではコイル状のファイバーレーザーが描かれているが、自由形状が可能なので、むしろファイバーレーザーでできた綿のようなものをイメージする方が適当かも知れない。
どんな形でも励起光を吸収すれば、1次元レーザーであるファイバーレーザーは励起光に比例したレーザー出力を出すという物理に変わりはない。光励起レーザー装置を低輝度の励起光から高輝度レーザー光に変換する質の変換器、輝度変換器と評価した場合、図のような励起空洞を満たした励起光からファイバー端面から出る高輝度光に変換するファイバーレーザーは、固体レーザーの中でも最も高い輝度改善を行なう固体レーザーと評価することができる。
会議のたびに互いの進歩を発表し合い、情報交換を繰り返したが、彼と植田は互いの違いを認識しながら、互いを認め合う関係となっていた。技術を技術で解決しビジネスに繋げるGapontsevと異なり、植田はあくまで物理学者として、技術的問題を技術ではなく、物理屋概念を変えて、より本質的に解決しようとしてファイバーディスクレーザーを開発していった。以下にその詳細を述べるが、IPG型のファイバーレーザーが席巻している現代であるが、ファイバーを固体レーザーの一種として捉えようとするファイバーディスクレーザーの概念は今後も重要だと感じている。
無料ユーザー登録
登録することで3000以上ある記事全てを無料でご覧頂けます。
- @optipedia.info ドメインより登録の手続きを行うためのメールをお送りします。受信拒否設定をされている場合は、あらかじめ解除をお願いします。
- Gmailをお使いの方でメールが届かない場合は、Google Drive、Gmail、Googleフォトで保存容量が上限に達しているとメールの受信ができなくなります。空き容量をご確認ください。