フーリエ成分増幅方式

フーリエ成分増幅方式

 2002年、日本で初めて1 kW出力のファイバーレーザーが開発された直後、三菱電機中央研究所でフォトンテクノロジーの会議を開いた。1 kWのファイバーレーザーを報告すると、以前、レーザー加工にはCWレーザーが必要で、パルスレーザーなどは不要だといっていたレーザー加工の研究者たちが、パルスレーザーはできないのか、と新たな要求をするよ うになった。そのような要求はなかったので、真面目な検討はしてこなかったが、研究者の常として、質問されてできないという返事をする気にはならなかった。

フーリエ成分増幅方式

 意地っ張りの研究者である植田は、「もちろんそれはできますよ。個別のファイバー増幅器は連続発振光を増幅するとして、その周波数に一定の間隔の周波数オフセットを付加しておいて、多数のビームを同じ点に集光してやれば、集光点上でフーリエ合成されます。CW光から短パルス光を発生させ、物質と相互作用させることができるはずです。」と答えました。

 その後、具体的に検討すると、原理的にはどこも問題がありません。それどころかこれは空間的に展開したモードロックレーザーと等価です。広く使われているモードロックレーザーは一つの光共振器の中に多数の縦モードが存在し、それらのモードが互いに結合し、等間隔で位相同期することで超短パルスを発生します。一定の周波数間隔を持った光が同じ空間内を往復し、それらがコヒーレントに加算されたものとして一方向に出力したものなのです。多ビームのコヒーレント加算技術が成熟すれば、空間的に異なったところで発生したフーリエ成分パルスが合成されて、超短パルスを発生することはできるはずだし、レーザー誕生以来の夢の実現となります。ちなみにTi:sapphireレーザーによるフェムト秒発生は数10万本もの縦モードが干渉した結果です。この考えは高出力分野ではまだ実証実験がされていませんが、非線形光学顕微鏡の世界では実際に使われるようになりました。主に生物試料などで、集光の途中ではパルス幅が長い多波長レーザーパルスを用いて試料の損傷を避けながら、集光点でフーリエ合成をさせて一挙に短パルス化、高強度化を実現して多光子吸収などの非線形現象を利用しようというものです。

 私の考えでは、この方式は究極の超短パルス発生方式です。レーザー増幅器としてはパルス増幅器よりもCW増幅器のほうが損傷がないぶん、必ず限界出力が大きくなります。またパルス圧縮用回折格子のレーザー損傷という大問題を避けることができます。その上、将来、各ファイバー出力の出力位相を精密制御することができると、集光のための巨大な集光レンズやミラーが不要になります。このような巨大な光学系は、口径が大きくなると天文学的な費用がかかるようになり、しかも損傷による寿命がある光学素子です。すべてをレーザーの位相制御で可能にする方式は、まさに究極のシステムといえるでしょう。

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