コヒーレントビーム結合とパルス圧縮

 超短パルスTiSレーザーとMourouが開発した CPA(Chirped Pulse Amplification) 技術の発展につれて、レーザーのピークパワーはTWからPWへと高くなり、レーザー電界強度は1020W/cm2の相対論光学領域から1023W/cm2の超相対論光学領域までが到達可能領域に入ってきた。1019W/cm2の原子内電界を越えると、原子のトンネル効果電離が始まり、数サイクルパルスによるコヒーレント電子の生成が物理を変えたように、これまでの物理学を根本的に変える質的変革がレーザーの高出力化で期待される。そして、 1029W/cm2のシュビンガー限界も夢ではなくなったのである。図にあるように光による高 エネルギー物理学が真剣に議論されるようになった。

コヒーレントビーム結合とパルス圧縮

 レーザーが作る相対論光学を利用したレーザー加速はGV/cmの電子加速を実証し、フェルミが夢見た地球周回サイズのPeV加速器もレーザー加速器では可能となった2011年、米国ローレンスバークレー国立研究所で、ICFA/ICUIL Joint WSが開催され、高出力レーザー委員会ICUILを代表して参加し、必要な条件を洗い出すと共に、現時点での推薦するべきレーザー技術をWhite Paperにまとめ、両委員会に提言した。

 植田自身は高出力セラミックレーザーに関する基調報告を求められたが、実際の議論になると、加速器専門家からは最低繰り返し速度15 kHz、パルスエネルギー8 J、パルス幅100 fs、効率15 %以上、という厳しい要求が突きつけられ、それを可能にできるのは、ファイバーレーザーしかないという結論になった。もちろん、ファイバーレーザーでそのような条件をクリアーするには、多数のファイバーレーザー出力をコヒーレントビーム結合する必要があるが、誰もしていなくても、それは原理的に可能である。一方、セラミックレーザーを含む固体レーザー技術では、エネルギーは出せるが、熱伝導冷却をして いる限り、15 kHzで冷却できる可能性はなく、レーザー加速に必要とされるビーム品質の確保は無理だという結論となった。植田自身はセラミックレーザーの専門家であったが、同時にファイバーレーザーの専門家であり、その結論に反対する理由など亡かった。むしろ、レーザーの専門家が難しいとして避けているコヒーレントビーム結合を加速器コミュ ニティーが原理的に可能と認めたことが意外でもあり、チャンスだと受け取った。

 実際、21世紀に入って産業用ファイバーレーザーの研究が高平均パワーレーザーとして発展を遂げるにつれて、科学研究分野でもファイバーレーザーを利用できないかという気運が盛り上がるようになった。そして、欧州の巨大プロジェクトであるELIでもMourouがファイバーレーザーアレイのコヒーレントビーム結合を提案するにいたる。

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