矩形クラッドファイバーレーザーの実験

 こんなに調子の良い理屈ができれば、当然実験で確かめるべきである。幸い、阪大山中 研時代に同じ研究室にいた田中紘幸さんが三菱電線の研究所長をしていた。三菱電線は NTT(電電公社?)と協力してソリトン伝送用のファイバーなどを開発しており、研究所には研究用のファイバー線引機があった。矩形クラッドのファイバーレーザーを作りたいと頼み込んで作ってもらった。持つべきものは同級生である。

矩形クラッドファイバーレーザーの実験

矩形クラッドファイバーレーザーの実験

作ってもらった矩形クラッドファイバーレー ザーで早速実験をしてみた。結果は左の図のとおりである。通常通り、片方に100%反射のミラーを置いて、ファイバーレーザーを発振させた。反対方向は石英ファイバーの端面反射(R=3.5%)である。ファイバーの長さは50m以上と十分に長い。すると、3.48W励起で1.86W出力、スロープ効率58.6%という結果が得られた。なんの調整も最適化もなしで、直ちにこのような高効率発振をしたのは素晴らしいともいえるが、その一方、この程度の特性ならYAGレーザーと差はないといえる。利得長が長大なので、全反射鏡を外して、端面反射だけでも発振できるかどうか試してみた。そして、結果に驚いた。図に示したように、36.6%の効率で発振したのであった。端面反射だけの 発振は双方向に対称であるから、反対側の出力を合わせると、ファイバーからレーザー光 として出力された効率は73%を超えていることになる。Ndの吸収から発光の間には量子欠損があるので、量子効率は76%を超えることはできない。理論効率が76%なのに、73%の効率でレーザー発振をする。しかも何も加えず、ファイバーの両端面のフレネル反射だけで。これは一大事だと考えた。なぜ、こんなにファイバーレーザーは高効率なのか、その秘密 を解明することこそ、ファイバーレーザーの将来を決定する鍵となるからである。

矩形クラッドファイバーレーザーの実験