クラッド励起の簡単なモデル化

 ちょうどその頃、文科省から連絡があり、中国人留学生の受け入れを打診された。大使館推薦の国費留学生で、博士課程の学生がほしい私には願ったり叶ったりで、早速受け入れた。それがAmping Liu君でちょうどできたばかりの電通大の博士課程に入学した。

クラッド励起の簡単なモデル化

ファイバーレーザーの研究が面白そうだといったら、彼は数値計算が得意だというので、励起光のクラッド伝播を計算してみることにした。ところがそれは大変な計算で、ファイバーそのものは細くて1次元的に見えるが、クラッド伝播は多モード伝播であり、クラッド境界面で反射するたびにモードが変わってしまう。紐のように見えるファイバーの中身の計算は完全な3次元計算となり、膨大なメッシュが必要になり、とても計算できない。しかし、よく考えると、ファイバーは長大な長さを持っていて、そのどの部分でコアが吸収しても利得に与える影響は等価である。ならば、何も長さ方向を真面 目に計算する必要はなく、無限長を持つファイバー断面におけるコア吸収の究極値を求めれば良いことに気がついた。そうなったら問題は単純な幾何学となる。円形クラッドの場合は、クラッド内の各点からコアを見込む見込み角を計算すれば良い。わずかでもコアに光線がぶつかればファイバー長が長いので、いつかは必ず吸収されるからだ。一方、見込み角から外れている光線はいくらファイバーが長くてもいつまで経っても、矩形断面内を行ったり来たりする光線は、コーナーに反射するたびに平行移動を繰り返す。その結果、断面内を平等に掃引することになるので、すべての光線は必ずコアで吸収されるということが証明された。こんな簡単な考察で論文が出版されるとLiu君は喜んで、研究に拍車をかけた。その後、我々の考え方は広く認められるようになり、D 型、矩形、六角形、☆型 などいろいろなクラッド形状が提案され、ついには空間モードを不安定化させるという提案まで登場したが、結果的にはすべてが最終的には100%吸収を可能とするので、大きな差はない。結局、複雑な形状は線引が難しくなるだけで、特にメリットは大きくない。