最初のファイバーレーザー

最初のファイバーレーザー

 それではファイバーレーザーの原点、1961 年のガラスレーザー発振の時点に戻ってみよう。1961年、American Glass Company の Snitzer は世界ではじめてのガラスレーザーのレーザー発振を報告した。BK(バリウムクラウン)ガラスにNdを添加したものである。フラッシュランプ励起で、一定の励起パワーを超えると突然、出力が巨大となり、ポラロイドフィルム上にバーンパターンがついた。当時の計測技術では、レーザー発振はリンギングが起こっていると表現されているが、当時のNormal oscillationは現在の緩和発振に相当する。我々の学生時代も、レーザー発振の確認にはカーボン紙を用いたバーンパターン計測をしたことを思い出す。論文ではガラスレーザー発振となっているが、実際は、Nd添加をしたBKガラスのまわりをソーダガラスで囲んだクラッド構造をしており、コア部分の太さは0.3mm と 0.03mmと細い。現在的センスからいえば、ファイバーレーザーともいえる。ただし、長さが7.5cmと短いので、ファイバーレーザーの最初とは考えられていない。
 面白いのは、なぜクラッド構造をとったか、という理由である。当時の実験では、Nd添加ガラスの製作量が少量で、均質なガラスロッドを作るには材料が不足したので、無添加ガラスをまわりに配置したと述べている。不十分な条件でレーザー発振させようと苦労した結果、無意識にクラッド構造を採用していたことになる。禍転じて福となすであった。やがて3年後、1964年には同じSnitzerがはっきりと意識してファイバーレーザーによ るレーザー発振を報告することになった。これはコア径10ミクロン、クラッド径1mm、長さ1mという立派なファイバーレーザーで、今日のロッドファイバーに近い。

最初のファイバーレーザー

ただし当時の励起方式はフラッシュランプ励起なので、ランプのまわりに配置した螺旋状のファイバー形状をしている。クラッド付きファイバーで、光の伝播モードを制御しているから、ファイバーを螺旋状に巻いたとしても、光は ファイバーに沿って伝播し失われることはな い。当時の側面励起フラッシュランプ励起方 式では励起効率が極端に低い。ファイバー結合型LD励起で圧倒的に高い励起効率を実現している現状は、当時としては想像もできないことだったのだ。

最初のファイバーレーザー

そのような観点で、当時の論文を読むと感慨深いものがある。さて現在のファイバーレーザーの構造はどうなっているだろう。基本構造は図のようで、比較的低輝度なLDを励起源とし、クラッド部に投入すると、励起光はクラッド伝播の間に希土類添加をされたコア部で吸収され、長大な利得を持ったファイバーレーザーはコア端面から高輝度なレーザー光として出力する。これを見ればわかるように、レーザーとは本質的に光の質を変換する装置で、低品質の励起光を高品質のレーザー光に変換している。集光能力でいうと、約700倍から1000倍に光を圧縮しているともいえる。同時に、ファイバーレーザーの特徴は高い変換効率と超高利得、超低損失、軽量、自由形状、高信頼性などだといえる。