レーザーガイド星励起用Yb添加ファイバーレーザー
宇宙の最深部まで探索できる望遠鏡にはハッブル望遠鏡など宇宙望遠鏡以外に、スバルのように地上に設置された大型望遠鏡がある。一方、最近になって口径15mから30m という超巨大地上望遠鏡が計画、建設されるようになってきた。これは大型化を妨げてきた大気擾乱がレーザーガイド星+アダプティブ光学技術の発展で補正可能となったことによる。地上 100km付近にはNaやKなどアルカリ金属が地球重力でトラップされた層が存在し、それを地上からレーザー励起をして、NaD2線を共鳴励起すれば、目標とする天体の視野の中に人工的な点光源を作り出すことができて、アダプティブ光学によって大気擾乱を補正できる。ただし1ms程度の時間で変動する大気擾乱を補正するには、明るい人工星が必 要で、589nmで20W 程度の狭帯域光が必要となる。Ybファイバーレーザーで589mの2倍、1178nmの強いレーザー光を発生させることを考えた。図に示すとおり、1178nmはYbの利得ピークから150nmも離れている。通常はレーザー発振など不可能に見える波長であるが、ファイバーレーザーでは10dB程度の利得があれば、高出力レーザー発振が可能だと見積もったわけである。問題はほしい波長における利得が10dBであるのに対して、利得ピークである1030nmでの利得は400dBもある。利得ピークで発振すれば、当然、すべてのエネルギーはそちらに吸い取られ、1178nmでの発振はできない。どうすれば本来のYbファイバーレーザーの発振やASE増幅を抑制または禁止するかということになる。このように巨大な利得差を単純なフィルターで克服することは不可能なので、ファイバーレーザー特有の技術であるフォトニック・バンドギャップ・ファイバー(PBGF)を利用した。これは半導体のバンドギャップと同様に、ファイバーを伝播できるモードをバンドギャップとして許容、禁止するものである。
実際、作成したものは図の通りで、デンマークのNKT社と一緒に共同研究で作成した。中心部分にYb添加コア、その両脇に偏波面保持のためのB添加部、さらにGe添加固体コアを規則的に配置し、そのまわりをエアークラッドで囲んだ構造をしている。このような複雑な構造をしたバンドギャップファイバーの作成は容易ではなく、設計通りのバンドギャップ特性が出るまで、何回も試作を繰り返した。図にある通り1178nmは透過帯に、そして1030nmでは光伝播が禁止されていることがわかる。PBGFの場合、この特性がファイバー長の全域で作用して、その領域で乗れ作用やASEを禁止することが重要である。
結果は劇的で、図に示したとおり、完全にASEフリーの状態で167Wという高出力を得た。ファイバーレーザーであるので、ビーム品質は回折限界で有ることはもちろんである。もちろん、PPLNによる第2高調波発生をすれば、1パスだけでも50%以上の効率で589nm光に変換することができた。
PBGFの長波長カット特性を利用すれば、ラマンファイバーレーザーの高出力限界を打ち破ることができる。無添加石英ファイバーで誘導ラマン散乱増幅を行うラマンファイバーレーザーは、希土類添加ファイバーよりもさらに低損失なので、高出力レーザーに適している。しかも発振波長は合成石英の透過域内でどこでも可能である。ラマンレーザーの問題は、増幅された一次ストークス光が励起光となり、さらに波長の長い2次ストークス光にエネルギー変換を繰り返すカスケード過程が発生することで、一つのレーザー光にエネルギー集中させることに限界があることである。2次ストークス光の伝播を禁止するPBGFはこれを解決できる。