モード競合のない単一モードファイバーレーザー

モード競合のない単一モードファイバーレーザー

 レーザーにおいてモード制御の重要性を示す例を一つ示そう。これは中国からの留学生Huang君が行った研究である。Huang君は中国西安の大学で当時、中国の最も高出力なTi:sapphireレーザーを開発し、修士号を取得した後、ただちに大学の助手として採用されたが、さらなる飛躍を目指して私の研究室の博士課程に私費留学で来た学生である。博士課程の受験のためだけに自腹で日本を一時訪問し、入学後は生協でアルバイトしながら勉強した。入学試験のためにパスポートを取得するなど、当時の中国では大変なことだった。もちろん、2年目からは国費留学生として研究に参加した。
 ここで示した研究は通常のYb添加ファイバーレーザーに1.2mから5mのYb添加ファイバーを長いループミラーとして接続したものである。もちろん、ループミラーの部分は励 起していないが、準3順位型エネルギー構造を持つYbの場合、Ybファイバーレーザーの発振波長1030nmでもわずかに基底状態吸収を持つ。3dB結合器で2つに分けられたレーザー光はループミラーを互いに反対方向に回って干渉し、ループミラー内に定在波を作る。僅かな吸収によってループミラー内に形成された周期構造は長大な回折格子として働き、発振スペクトル幅は2kHzまで狭帯域化した。さらに何も制御をしていないにもかかわらず、ファイバーレーザーの出力安定度は0.8%以下で3時間以上、安定であった。縦横モードを極小にすると、レーザーは自然にこれほど安定になる。レーザーで発生している様々の雑音や不安定性はモード競合に由来するのである。思えば、レーザーの勉強を始めた最初、Yarivの解説論文を読んだが、その最初はモードの説明であり、1cm立方の空間に存在する光のモードは NxNyNz=1012にもなることが書かれていた。波の理解は紐のような1次元では容易だが、3 次元の波はモード数が極端に多くなるので、困難となる。膨大な空間モードの中の一つにエネルギーを集中するのがレーザーだということの意味が改めて分 かる実験結果といえる。