ファイバーレーザーが高効率である秘密
高効率の秘密はレーザー増幅の基本式から明らかになった。レーザー媒質中の光の増幅を示す式で、極大値、すなわち光の増加率が一番高い条件を計算すると、増幅媒質に対する最適入力値の関係が得られる。
は利得・損失費である。さらに反転分布料の変化率最大の条件からレーザー媒質内に蓄積されたエネルギーからレーザー光に変換されるエネルギーの最大効率条件が求まり、その結果、レーザー増幅器(γ−1)2 の最適引き出し効率を導くことができる。結論は
と簡単な式で表される。この式の意味するところは具体的な数値を当てはめるとよく分かる。
γ=1 すなわち利得と損失が同じ場合、せっかく増幅した光はすべて増幅媒質内で損失するので、増幅器としての効率はゼロとなる。増幅器の効率は利得が損失の何倍あるかで決まるということだ。普通の固体レーザーでは、この利得損失比は100前後というものが多い。正直に言うと、この関係を導いたのは、昔エキシマレーザーの研究を行っていたときだった。エキシマレーザーは利得が大きなレーザーだが、同時に過渡的に発生する様々の分子種がレーザー光を吸収するので、利得・損失比は10程度にしかならない。結局、最大引き出し効率は50%程度となり、せっかくBound-Free光学遷移をもつエキシマにもかかわらず、核融合用エキシマレーザーの内在的効率は10%程度であると結論された。この場合、レーザー核融合利得はG=100が必要となる。
一方、ファイバーレーザーの場合、希土類添加ファイバーでも損失係数は3dB/kmと1kmでやっと光強度が半減する。γ=1000,000は容易に達成できる値で、ファイバーレーザーでは物質内に蓄積したエネルギーを100%光に変換することが可能となる。このメ リットを端的に示すのは、10ミクロン程度のマルチモードファイバーを単一モード発振 させるために、ファイバーを曲げる技術である。いろいろな曲率でファイバーを曲げた場合、高次モードには曲げによって生じる損失が発生し、その影響が少ない基本モードにエネルギーが集中してくる。結果的に基本モードのパワーが増加することが起こる。通常の固体レーザーなどで、空間モードフィルターを挿入した場合、ビーム品質は良くなるが、基本モードそのものにも損失が増加するため、レーザーの出力は減少するのが普通である。 その理由は図に示された最適引き出し曲線を見ればよく分かる。ファイバーレーザーの場合は、僅かな損失の増加があったとしても、もともと引き出し効率はほぼ 100%のレベルで飽和しているので、レーザー出力が減少することはなく、一方、高次モードに配分されていたエネルギーは全て基本モードに集中するので、基本モードのパワーが増大する。このあたりは、レーザーとはモードに対するエネルギー分配器であると考えるとよく分かる。