ビーム径の詳細

電磁ビームのビーム径やビーム幅は、ビーム軸に垂直かつ交差する、特定のラインに沿った直径である。ビームは通常、シャープなエッジを持っていないため、ビーム径は様々な方法で定義することができる。一般に使用されているビーム幅の定義は、D4σ、10/90または20/80ナイフエッジ、1/ e2、FWHM、D86の5つである。ビーム幅は、ビーム軸に垂直な特定の面を、長さの単位として測定されるが、光源からのなす角、角度幅を参照して測定することもできる。この角度幅は、ビームの発散とも呼ばれる。

ビーム径は通常、光の領域で電磁ビームを特徴付けるために使用され、マイクロ波領域では、電磁ビームが現れる開口が、波長に対して非常に大きい場合、たまに使用される。

ビーム径は通常、ビームの円形の断面を参照するが、必ずしもそうではない。例えば、楕円形の断面を持つビームもある。その場合には、ビーム径は、例えば、楕円形断面の長軸または短軸に対応して特定しなければならない。「ビーム幅」という表記は、ビームが円対称性を有していない場合に使用するほうが望ましい。

1. 定義

1.1. レイリービーム幅

放射パワーの最大ピークと、最初に放射パワーが0になる位置との間の角度は、レイリービーム幅と呼ばれている。

1.2. 半値全幅

ビームの幅を定義する最も簡単な方法は、ピークの放射パワーに対して、ある割合を持つ2点を選び、その間の距離をビームの幅とすることである。この割合は通常、1/2 (-3dB)であり、最大強度の半分におけるビームの全幅がビーム径となる(FWHM)。これはまた、half-power beam width (HPBW)とも呼ばれる。

1.3. 1/e2

1/ e2の幅は、最大値の1/ e2=0.135倍に相当する2点間の距離に等しい。多くの場合、最大強度の1/ e2=0.135倍の2点間での距離をとる事が理に適っている。最大値の1/e2倍となる点が2点以上存在する場合は、最大値に最も近い2点が選択される。ガウシアンビームにおいて、1/e2 幅は数学的に重要である。ガウシアンビームの強度プロファイルは次式で表される。

Beam-dia1

レーザーの安全な使用法に関する米国標準規格Z136.1-2007(p.6)では、パワーの最大値に対して、1/ e(0.368)倍となるパワーでの強度分布のクロスセクションを取った時、対極にある2点間の距離をビーム径として定義している。これは、レーザービームの最大許容露光量を計算するために使用される、ビーム径の定義である。さらに、米連邦航空局は、FAA Order 7400.2Fの”Procedures for Handling Airspace Matters” (February 16, 2006, p. 29-1-2.)で、レーザーの安全性を算出するために、1/eの定義を使用している。

1/e2 幅の測定は、強度分布の積分に依存しているD4σやナイフエッジ幅と異なり、強度分布の3点にのみ依存している。1/e2幅の測定は、D4σ幅の測定よりもノイズが多い。マルチモーダルな強度分布(複数のピークを持つビームプロファイル)に関しては、1/e2幅測定は意味のある値を得ることができず、ビーム幅をかなり小さく見積もってしまう。マルチモーダルな強度分布では、D4σ幅が適切である。理想的なシングルモードのガウシアンビームの場合、D4σ、D86および1/e2幅の測定値は、同じ値になる。

ガウシアンビームの場合、1/ e2 の幅と半値幅の関係は、
ビーム径の詳細_eq1
である。

ここで、ビーム径の詳細_eq2は、1/e2でのビームの全幅である。

1.4. D4σまたは二次モーメント幅

水平または垂直方向のビームのD4σ幅は、水平または垂直方向の強度分布の標準偏差σの4倍である。

ビームプロファイルのx方向におけるD4σビーム幅は、次式で表される。
ビーム径の詳細_eq4
ここで、
ビーム径の詳細_eq5
はx方向におけるビームプロファイルの平均である。

ビームをレーザービームプロファイラで測定する場合、ビームプロファイルの端は、プロファイルの中心よりも、D4σの値に大きく影響を与える。これは、ビームプロファイルの端が、ビームの中心からの距離の2乗、x2を含んでいるためである。ビームがビームプロファイラのセンサエリアの1/3未満の場合は、センサのエッジの部分では、小さいベースライン値(バックグラウンド値)を持つピクセルが、かなりの数で存在する。ベースライン値が大きいか、画像から減算されていない場合、センサのエッジ付近のベースライン値が、x2におけるD4σの積分値に含まれるため、算出されたD4σ値は実際の値よりも大きくなる。したがって、ベースライン値の減算は、正確なD4σを測定するために不可欠である。ベースライン値は、センサにレーザー光が照射されていないときの、各画素の平均値を記録することにより、容易に測定できる。D4σ幅はFWHM及び1/e2幅とは異なり、マルチモーダルな強度分布、つまり複数のピークを持つビームプロファイルに有効である。ただし、正確な結果を得るためには、ベースライン値の減算を正確に行う必要がある。D4σは、ビーム幅における、ISOの国際標準規格である。

1.5. ナイフエッジ幅

CCDビームプロファイラが使われ始める前は、カミソリでレーザー光をスライスし、カミソリの位置の関数として、スライスされたビームのパワーを測定する、ナイフエッジ法を用いてビーム幅が推定された。測定された曲線は強度分布の積分値であり、ビームのトータルの強度で始まり、積分値がゼロになるまで単調に減少する。ビームの幅は、測定された曲線の最大値の10%と90%(または20%と80%)での2点の間の距離として定義されている。ベースライン値が小さいか減算されている場合、ナイフエッジビーム幅は、いかなるビームプロファイルであろうと、20/80の場合は全ビームパワーの60%に、10/90の場合は全ビームパワーの80%に相当する。一方、D4σ、1/e2、およびFWHM幅は、ビームの形状に依存した強度分布の影響を受ける。したがって、10/90または20/80ナイフエッジ幅は、幅が全ビームパワーの一定の割合を含んでいることを確認する場合に、有効な方法である。ほとんどのCCDビームプロファイラソフトウェアは、数値計算でナイフエッジ幅を出すことができる。

1.6. ナイフエッジ技術とイメージングの融合

ナイフエッジ法の主な欠点は、測定値が走査方向にだけプロットされていることで、これでは関係性のあるビームの情報量を、最小に抑えてしまう。この欠点を克服するために、複数方向でナイフエッジの走査を行って、ビームの強度分布のようなナイフエッジ画像を生成する、革新的な技術も市販で提供されている。(http://www.novuslight.com/laser-beam-profiling-and-measurement_N678.html)

この技術では、ビームを横切るように、機械的にナイフエッジを動かすことで、センサエリアに入射したエネルギーの量を、遮蔽物よって決定できる。ビームプロファイルは、ナイフエッジの速度と検出器からのエネルギー値との関係から測定される。他のシステムとは異なり、色々な方向のナイフエッジをビーム上で掃引する、ユニークなスキャン技術を使用している。トモグラフィックな再構成技術を利用することにより、数学的な処理で、色々な方向のビームサイズを、CCDカメラで取得したビームプロファイルのような画像として再構築することができる。この走査方法の主な利点は、CCDカメラのようにピクセルサイズに制限されないということと、既存のCCD技術では使えない波長でのビーム再構成を可能にするということである。深紫外線から遠赤外線までのビームを再構成することが可能である。

1.7. D86幅

D86幅は、ビームプロファイルの重心を中心として、ビームパワーの86%が含まれる円の直径として定義されている。D86幅は、ビームプロファイルの重心から円形に領域を増加させていき、領域内のトータルのビームパワーが86%になったところで、円の直径を算出する。これまでの他のビーム幅の定義とは異なり、D86幅は強度分布から導出されない。割合として50%、80%、90%等ではなく、86%が使用される理由は、ピーク値から1/e2まで、円形のガウスビームプロファイルの強度分布を積分した時、トータルパワーの86%を含んでいるためである。D86幅は、所定の領域で、どのくらいのパワーがあるかを正確に知る必要があるアプリケーションで、しばしば使われる。例えば、高エネルギーのレーザー兵器やLiDAR(ライダー)では、実際にどのくらいのパワーがターゲットに照射されるのか、正確な情報を必要とする。

1.7.1 楕円ビームに関するビーム幅

これまでの定義は、無収差(円形対称)ビームに対してのみ成り立つ。しかし、非点収差のあるビームでは、より厳密なビーム幅の定義が必要であり、そのビーム幅は次式で定義される。
ビーム径の詳細_eq6
ビーム径の詳細_eq7
ここでは、X-Y相関 ビーム径の詳細_eq8 についての情報も含まれているが、円形対称のビームに関しては、2つの式は同じとなる。いくつかの新しい記号が式中にあるが、これらは一次と二次モーメントであり、次式で表される。
ビーム径の詳細_eq9
ビーム径の詳細_eq10
ビーム径の詳細_eq11
ビーム径の詳細_eq12
ビーム径の詳細_eq13
ビームパワー Pは、
ビーム径の詳細_eq14
ビーム径の詳細_eq15
である。

この一般的な定義を使用することで、下記のようにビームの方位角 ビーム径の詳細_eq16aも表すことができる。

ビーム径の詳細_eq16

2. 測定方法

国際標準規格ISO11146‐1:2005では、レーザービームが無収差である場合のビーム幅(もしくは直径)、発散角、ビーム伝搬比の測定方法が指定されている。一般的な非点収差のあるビームに関しては、ISO11146‐2を適用することができる。D4σビーム幅はISO標準の定義であり、M²ビーム品質パラメータは、D4σ幅の測定を必要とする。他の定義はD4σに補足情報を提供する。D4σとナイフエッジ幅はベースライン値に対して敏感であるが、一方で、1/e2幅とFWHM幅はそうではない。ビーム幅内に含まれるビームパワーの割合は、使用される定義に依存する。レーザービームの幅は、カメラで画像を撮像したり、レーザービームプロファイラを用いることによって、測定することができる。