フェムト秒レーザーによる白内障手術

人口統計によると日本国内の白内障患者数は約4,000万人。総人口が1億2700万人であることから考えると相当な数にのぼる。主に40歳以降の成人が発症することが多く、その割合は高齢者に偏っている。
40歳代では353万人の患者数は50歳代で700万人と倍増し、60歳代1,199万人、70歳代1,091万人と1,000万人を超え、80歳代では800万人となっている。割合で見ると、40歳代は約20%であるのに対し80歳代になると全体の90%が白内障を発症している。加齢によって罹患率が上昇する為、人口の3分の1近くの患者数となるのだ。
通常は点眼薬が処方されるが、これは白内障を治癒する為のものではなく、進行を若干程度遅らせるもので、いずれは濁った水晶体を人工レンズに置き換える手術を必要とする。この手術方法にフェムト秒レーザーを使用するという新技術が取り入れられ始めている。
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1000兆分の1秒という極めて短いパルスを連続的に照射するフェムト秒レーザーは、眼科医療としては既にレーシックや角膜移植の現場で使用されてきた実績があり、それが白内障手術に取り入れられた形だ。指定した場所の組織を一瞬で蒸発させることが可能な為、周辺組織へのダメージを最小限にとどめて処置出来ることが特徴だ。
手術は全てコンピューター制御の元で行わる。(それに先立って光干渉断層計で個人個人異なる眼球の形状を3次元的に計測し、切開の大きさや箇所をコンピューターで管理する)。先ず、水晶体が入っている前のうをレーザーで円形に切除し、濁った水晶体を砕き、機材で破片を吸い上げる。そしてその空いた空洞に折り畳まれた人工レンズを挿入し、中で広げる、という手順を全て機械で行う。前のうの切開は数秒で終えることが可能で、誤差は1000分の1mm以下という正確さだ。

 図2
 図3

医師の経験と技術によって支えられてきた白内障手術に、機械による緻密さを要求する背景には、人工レンズの質の向上がある。従来はピントを一点に絞った単焦点眼内レンズであったのに対し、現在は乱視矯正や複数の焦点を有するもの或いはその両方を兼ね備えたもの等、多機能なレンズが使用されることが増えている。これらのレンズはその性能に比例して、より正確な装着が必要となり、前嚢を切開する際には真円に切り取ることが要求される。その為人の手よりも精度の高いコンピューター制御下で施術されるレーザー治療が適しているのだ。
正確・安全なフェムト秒レーザーによる手術だが、病状によっては受けられない場合もあるので注意が必要だ。角膜に混濁がある、瞼を大きく開けることが出来ない、瞳孔散乱がある、という症状が見られる場合は使用できない。
また、2008年にハンガリーで初めて実施されて以来、欧米では主流となりつつあるこの技術は、日本国内では未だ保険適用外の為、手術を受ける際には約50万~60万円(医療機関によって異なる)の医療費がかかることを覚えておいた方が良いだろう。

白内障、という病は、紀元前の古代ギリシャやインドで既に認知されており、目の中に針金状のものを挿入するという治療も行われていたという。日本でも最も古い医学書「医心法」(948年)に記載があり、この治療法が広い範囲で行われていたことが窺える。18世紀にはヨーロッパで水晶体摘出手術が行われ始め、1949年には人工レンズが開発された。長い歴史と研鑚を経て現在の技術へと至った白内障手術の技術は、フェムト秒レーザーの導入によってまた新たな段階へ進んでいくのかもしれない。

参考

*社会医療法人きつこう会 多根記念眼科病院
http://www.tanemem.com/chiryo/other/femto/index.html

*http://www.ichishiganka.com/(図1)

*東京歯科大学水道橋病院 眼科
http://www.sh-eye.tdc.ac.jp/flaser/(図2,3)

*目の歴史 ~温故知新
http://eyehistory.seesaa.net/article/412457529.html

執筆者:株式会社光響 緒方