ファイバーレーザー発振器の短所の一つは光ファイバーの端面が損傷しやすいことである。これは、コアの母材である石英ガラスの損傷閾値がYAG等の結晶と比較して低く、更にはレーザー媒質である直径10μm程度のコアの端面に入射する際のパワー密度が非常に高くなるためである。また、高出力レーザーを扱うレーザー加工では、加工面からの反射光がレーザー射出部を破壊することもある。

光ファイバーの光学破壊は、端面のフレネル反射による寄生発振が原因で起こることが多い。寄生発振を抑制するために、図1(a)に示すような端面を斜めに切断する方法が用いられており、斜め切断用のファイバークリーバも市販されている[1]。しかし、希土類イオン等が添加されたシリカガラスファイバーは、非添加シリカガラスファイバーに比べてダメージ閾値が低い。

そのため近年では、図1(b)に示すような、コアのない非添加シリカガラスファイバーを希土類添加ファイバーに融着するエンドキャップ方式がとられている[2]。端面によるフレネル反射光の大部分は、クラッドへと導かれるため、光ファイバー端面の光学破壊は抑制される。エンドキャップ方式はフォトニック結晶ファイバーにも用いることができる[3]。ファイバー端面に光が集中するのは実用上問題である[4]。特に、端面励起は実験室での実証実験に過ぎず、産業用高出力ファイバーレーザーのために、信頼性の高い励起方法の開発が重要になってきている。

光ファイバーの端面が光学損傷を受けた場合は、その部分を切断して再度使用することが可能である。光学損傷が端面以外のファイバー内部に発生した場合、損傷部を切断し光ファイバーを再度使用するには融着接続しなければならない。

図1:端面反射を防ぐ方法。(a) 端面の斜め切断の様子、(b) エンドギャップを接続した様子1

 

エンドキャップ

図2:エンドキャップを接続した様子2

 

しかし、高出力ファイバーレーザーの場合は、僅かな融着接続損失でも光学破壊閾値の低下や局部的な光散乱あるいはレーザー発振を引き起こすため、長期信頼性に欠ける。また局所的に起こるファイバーの光学損傷以外に、光学損傷がファイバーを伝搬する“ファイバーヒューズ(Fiber Fuse)”と呼ばれる溶融破壊現象も存在する[5]。

連続発振レーザーの場合

CWあるいは高繰り返しパルス動作におけるバルク型のシリカガラス表面の光学破壊閾値は2 GW/cm2とされているが[6]、希土類添加シリカガラスの場合は1 GW/cm2程度と低くなる。光学破壊閾値を0.5 GW/cm2としたときのモード半径に対する出力制限特性を図2に示す。ここで光学破壊閾値を0.5 GW/cm2としているのは、光が光ファイバー中を空間的にガウシアン分布で伝搬していると仮定すると、コアの中心部分にエネルギーが集中するためである。なお、励起光からの熱による出力制限は考慮していない。図2には、光ファイバーの光学破壊閾値と合わせて、次式で求められるSRS閾値とSBS閾値も示した。

ここで、ビームはシングルモード伝搬すると考え、ラマン利得係数gRとブリルアン利得係数gBはそれぞれ、gR≈1.2×10−13 m/W、gB≈2.0×10−11 m/Wとし、光ファイバーの有効相互作用長leffを5 mとした。図2より、CWの高出力ファイバーレーザーはSBSにより制限されることが分かる。

図2:光ファイバーの有効相互作用長が5mのときの出力制限特性

パルス発振レーザーの場合

バルク型のシリカガラスの光学破壊閾値は、1 nsのとき約50 J/cm2とされている[7]。パルス幅が1 nsのレーザーを、コア径が10 μm、30 μm、100 μm、200 μmの光ファイバーにそれぞれ入射したときの光学破壊閾値を図3(a)に示す。また、図3(b)にはコア径が10 μmのときの光学破壊閾値を詳細に示す。パルス光学破壊閾値はバルクの光学破壊閾値とシリカガラスの自己収束効果(カー効果の一種で、ビームが媒質中で一点に収束する現象)により決められるため、図には自己収束閾値(ビームが媒質中で一点に収束する現象の光強度閾値)も合わせて示した。シリカガラスの自己収束閾値は3.7 MWであり、非線形屈折率n2≈2.2~3.4×10−20 m2/Wの値により決められる。なお、バルクの光学破壊閾値のパルス幅依存性は、平方根2乗則(Square-Root 法)[8]、[9]により決められ、これはパルス幅がx倍長くなると、√x倍光学破壊閾値が上がるというものである。

図3:パルス幅1 nsのパルスレーザーによる光学破壊閾値
(a)コア径 10 μm、30 μm、100 μm、200 μmのとき、(b)コア径 10 μmのときの光学破壊閾値

Reference and Links

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