レーザーの基礎をゼロから解説
Yb:YAG のエネルギー準位図と吸収断面積と誘導放出断面積を示す。

図1:(a)Yb:YAG のエネルギー準位図 (b)Yb:YAGの吸収断面積と誘導放出断面積
図1(a) はYb:YAGのエネルギー準位図である。Yb:YAG レーザは2F7/2 と2F5/2の2 つのシンプルな電子準位によって構成されている。それぞれの準位には結晶場により2F7/2準位に4つ、シュタルク分裂により2F5/2準位に3つの副準位がある。この副準位によりレーザ動作が行われる。
0cm-1が基底準位であり、10327cm-1がレーザ上準位になる。このシンプルなエネルギー準位構造を持つため、2F5/2 の上準位に励起されたイオンが更に光を吸収する励起状態吸収などのアップコンバージョンが起らない。
しかし、シュタルクシフトによる副準位間のエネルギー差は2F7/2と2F5/2の準位とも数100cm-1程度であり、熱的に励起されイオンが分布する。そのために室温では、常に2F7/2準位内のレーザ下準位となる副準位すべてにイオンが分布しており、反転分布が形成されにくい欠点がある。このレーザ下準位のイオン分布により、レーザ光を吸収する効果があり、この効果はレーザ光の再吸収、または再吸収損失と呼ばれている。
図1(b)はYb:YAG の吸収断面積と誘導放出断面積である。
代表的な941nmの吸収帯は10nmの広い吸収スペクトル幅を持ち、励起LDの発振スペクトル幅や個体差、温度、出力パワーなどによる波長のシフトの影響を受け難く効率よく励起することができる。基底準位からレーザ上準位に直接励起する968nmの吸収線も吸収断面積が大きく、レーザの原子量子効率を高くすることができるため、高効率動作の観点から注目されている。
一方、誘導放出断面積をみると1030nmに強い蛍光帯がある。この蛍光帯の幅は、10nmほどと広く100fs領域の超短パルスの発生が可能である。しかし、この蛍光帯には吸収断面積より、再吸収損失があることがわかる。また、1030nmの蛍光帯が強いためはっきりとは分かりづらいが、1048nm にも蛍光ピークがあり、この1050nm帯の再吸収損失は少ない。このため、実質的な特性の面で1030 nm 帯と比較される代表的なレーザ発振波長帯となる。
このように励起波長(941nm)とレーザ波長(1034 nm、1048 nm)とが近いために量子欠損は10%以下と小さい。Yb:YAG レーザでは励起状態吸収などがないため、生じる発熱は量子欠損のみと考えてよく、熱発生量は代表的なレーザであるNd:YAG レーザに比べて1/3~1/4 と小さいという大きな利点がある。このことから結晶内で生じる熱効果を大幅に小さくでき、結晶内での熱歪が大きくなりにくい。
高平均出力レーザ動作のときには、冷却が容易である。また、熱として失われるエネルギーが少ないことは、高効率動作が可能性を示している。Yb:YAG の蛍光寿命は950μsと長く、代表的な超短パルスレーザ媒質であるTi:サファイアの蛍光寿命は3 μsであり、それに比べると2 桁以上長い。蛍光寿命が長いことは、パルスレーザを高効率かつ高出力に動作させるのに大切なパラメータである。Yb:YAG結晶はドープイオンであるYbと母材のYAG のY のイオン半径が近いために、Ybイオンを高濃度にドープすることが可能で、濃度消光が起こり難い。Yb:YAG 結晶はYbイオンを100at.%まで添加することができる。