IT革命のハードウェア面での中核技術である光通信は,直径約0.1 mmの情報伝送線路光ファイバにより支えられている.光ファイバは,低損失で,軽く,電磁誘導に強くて,耐水性・耐火性を持つ.この特性を活用するだけで,さまざまな特殊環境や悪環境下での遠隔センシングを可能にする.一方で,光ファイバ自体をセンサとしたユニークな技術もある.1か0かを判断することで情報を送るデジタル通信においては安定な特性を示す光ファイバも,アナログ的には外界の影響を強く受ける.この性質を活用することによって,光ファイバを長いセンサとして利用する技術が開発されている.

光ファイバセンシング技術の構成法の分類を図25・23に示す.上述の光ファイバの特性を活用するもの,(1)センサまでの伝送路に光ファイバを利用するもの,(2)光ファイバ自体をセンサとする,(3)多点型・分布型の構成とすることにより計測と位置を検出するもの,が実現されている33)~39)

図25・23

本節では,これらの光ファイバ利用計測のうち,1)回転計測,2)電流・磁界計測,3)温度計測,4)ひずみ・振動・圧力計測について紹介する.

25・2・1 回転計測

[1] 測定原理

慣性空間に対する回転センサをジャイロと呼ぶ.ジャイロにより,航空機は時々刻々の姿勢を検出することができ,さらに加速度計による直線運動情報をも総合して,その位置を認識する.従来,ジャイロ機能を実現するためには,回転体の回転軸が慣性空間上,一定方向を向き続ける性質が利用されてきた.しかし,このコマ式ジャイロでは,起動に時間がかかる,保守が必要など,扱いにくい面があって利用される分野が限定されていた.

光ファイバジャイロは,相対論に立脚したサニャック効果に基づく純光学的な可動部分のないジャイロである33)~41).瞬間起動が可能,ダイナミックレンジが広い,メンテナンスフリー,扱いが容易などの特徴を有して,ジャイロ技術分野に革新をもたらしてきた33)~41)

[2] 干渉方式光ファイバジャイロの構成

図25・24に,干渉方式光ファイバジャイロ(I-FOG)の構成分類を示す.光源にはスペクトル幅の広い光源を用いる.I-FOGでは,光ファイバの後方散乱が逆回り信号光の位相を乱して雑音となる.信号光と後方散乱光とは大きな光路差を有するので,低コヒーレンス光源の導入により両者の干渉が抑圧できて,雑音低減が図られた33)41).また,受光器出力は入力回転角速度の余弦関数となるので,微小回転に対して感度を持たない.センシングループの一端で、光波に位相変調を与えて受光器出力をその変調周波数で同期検波し,感度を得る33)~41)

図25・24

図25・24では,センシングループ中での偏波変動が誘起する雑音への対策法でI-FOGを分類した.最も基本的かつ安価な構成が(a)で,全単一モード光ファイバ構成と呼ばれる.光ファイバを伝搬した光波の偏波状態変動による出力ドリフトへの対策としては,図に示す偏光子の導入が有効である33)~41).(a)の構成では,光ファイバ出力がその偏波軸に対して直交しないようにするなどの目的で,デポラライザをコイルの一端に設ける.(b)は,偏波維持光ファイバで全光学系を構成したもので,(a)より性能が良い.

航空機の慣性航法用ジャイロには,0.01°/h(4年で1回転)という分解能と,7桁にも及ぶタイナミックレンジが要求される.(c)は,このための光学系構成である.プロトン交換で導波路を形成したニオブ酸リチウム光集積回路中に設けた周波数特性に優れた位相変調器に特殊な波形を加え,その波形にジャイロ出力を帰還する.デジタルセロダイン方式と呼ばれる方式では,位相変調器の駆動波形の周波数が入力回転に比例する.広いダイナミックレンジでの測定を可能にした40)41).本方式は,中・高精度ジャイロに採用されている.このような手法を一般にクローズドループ方式と呼び,帰還系を含まない方式をオープンループ方式という.

図(d)に示すように,価格低減のためにファイバコイルを通常の単一モード光ファイバとする構成も開発された42).ニオブ酸リチウムプロトン交換光導波路は,きわめて良好な(消光比60 dB以上)偏光子となる.この特性を活用すると,長尺光ファイバを安価な単一モード光ファイバとしても,偏波変動に基づく出力雑音が小さく抑えられる.コイル両端に設けた短尺の偏波維持光ファイバの偏波軸をチップのそれに対して45°傾けて接続することにより左右両回り光とも偏光が解消され,さらに,ここで生じた不要な偏波成分を上記チップの偏光子作用によって十分に低減できるのが高性能の理由である42)

[3] 実用化例

図25・25は光ファイバジャイロの実用化例である.光ファイバコイルの中に,光源,受光器,位相変調器,信号処理部が収められている42)

図25・25

光ファイバジャイロは,従来の機械式ジャイロとくらべて瞬間起動が可能,保守が不安,ダイナミックレンジが広い,扱いが容易,などの特徴を有する.これらを生かして,さまさまな実用化が進んでいる34)~36)39)40)

I-FOGは,最新鋭旅客機ボーイング777の慣性航法装置に採用されてきた.わが国では宇宙開発事業団のTRI-Aロケットの制御に1991年以来使用されている.このロケットの目的は,微小重力下での実験で,サイレントジャイロとしてI-FOGが必須であった.1991年の実験は,世界で最初のI-FOGの宇宙応用である.このほか,文部省宇宙科学研究所が1997年2月に1号機を打ち上げたM-VロケットにもI-FOGを用いた慣性航法装置が採用され,以降,M-Vの打上げには光ファイバジャイロが活躍している.この1号機で打ち上げられた人工衛星Muses-B「はるか」にも,その制御用にI-FOGが用いられている.このように,航空,宇宙,船舶といった従来からジャイロを必要としてきた分野へI-FOGは浸透している.

この流れに加えて,メンテナンスフリー瞬間起動が可能などの特徴を生かして,新たな民生応用も創造してきた34)~36)39)40).I-FOG は,高級セダンの純正カーナビ用にも販売されてきた34)~36)39)40).都市ガス漏洩センサを搭載した測定車両の位置情報をI-FOGを含むカーナビで検出し,漏洩箇所のマッピングをおこなう高精度システムも開発された43).ヘリコプターから望遠カメラで地上をとらえた画像のブレ防止にもI-FOGによるカメラ安定台が貢献している.農薬散布用ラジコンヘリコプターの制御のためにもI-FOGが活躍している34)~36)39)40).また,最近話題となっている2足歩行ロボットにもI-FOGが活用されている.

25・2・2 電流・磁界計測

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