ストリークカメラは,種々の現象に伴う超高速光情報をサブピコ秒という優れた時間分解能で直接測定できる唯一の装置である48)~56).ストリークカメラが本格的に使われはじめたのは,ストリーク像をテレビカメラで読み出して解析するストリーク像解析装置57)をストリークカメラに結合した装置58),つまり超高速ストリークカメラシステムが開発されて初めてピコ秒領域のリアルタイム計測が可能になった,1977年以降である.時間分解能の世界記録は,1975年に700 fs (写真フィルム記録)59),1986年に500 fs60),1993年に180 fs61)が達成されて現在に至っている.

ストリークカメラによる計測は,i)時間分解能と検出感度がきわめて優れ,ii)単一の光現象でも時間分解分光測定や空間・時間分解測定定などの2次元測定や多チャンネル測定(画像化計測)が可能,iii)近赤外線から真空紫外線,さらには,X線域での測定が可能であるなどの特徴があり,ストリーク像解析装置を使用することによって,iv)超高速光現象のリアルタイム測定が可能になる.

光子と物質との超高速相互作用,そのダイナミクスやメカニズムなどに関する基本情報の多くは,ピコ秒~フェムト秒領域の時間分解計測によって取得することができ,ストリークカメラは各種の先端科学技術分野で広く利用されている.このような計測では,優れた時間分解能だけでなく,高精度・短時間計測を実現させるための機能,たとえばスペクトル領域や空間領域での多次元データ収集機能などが重要になる.なお,超高速光計測では,時間分解能を向上させると,観測時間が短くなって計測に利用できる光子数が減る.したがって,超高速光計測は必然的に極微弱光現象計測62)~65)という制約を受ける.

近年では,ストリークカメラとオシロスコープの技術を融合した新しい概念に基づく光オシロスコープも開発されている66)67).以下,これらのストリークカメラとその応用について述べる.

23・3・1 ストリークカメラの動作原理

ストリークカメラを具現化するキー技術は,光信号を光電子信号に変換する光電変換,光電子ビームを偏向して時間情報を空間情報に変換する時間-空間変換,およびマイクロチャンネルプレート68)(MCP)による低雑音の2次元電子増倍であり,これらの機能は1本のストリーク管69)70)に内蔵されている.また,ストリークカメラは動作原理上,単掃引型とシンクロスキャン型(光現象に同期した100 MHz程度の正弦波で掃引する)に大別される50)~56)

図23・14は単掃引型ストリークカメラの動作原理を示す.被測定光をスリットに入射し,リレーレンズを介してストリーク管の光電面に光信号のスリット像を結像させる.光電変換されて光電面から出た光電子(被測定光信号のレプリカ)は,メッシュ状の加速電極で加速されて偏向場に入り,スリット長さ方向と直角な方向に高速偏向されたあと,マイクロチャンネルプレートで約3×103倍に電子増倍され,蛍光面で再び光学像(ストリーク像と呼ぶ)に変換される.掃引回路は,入射光に同期した高速の鋸歯状波電圧(掃引電圧)を発生するもので,入射光に周期した電気信号でトリガされる.

図23・14

以上の構成により,光電子がいつ光電面から出たかによって,その偏向角すなわち蛍光面上の位置が決まり,入射光強度の時間的変化が蛍光面上の光強度の空間的変化に変換される(時間-空間変換と呼ぶ).このとき,ストリーク像の光強度は入射光強度に比例する.また,スリッ卜長さ方向の情報はそのまま空間方向の情報として保存されて蛍光面に現れ時間分解分光計測などに利用される.

シンクロスキャンストリークカメラは,光信号に同期した高繰返しの正弦波電圧で掃引する51).すると,蛍光面上で高繰返しストリーク像が積算されてストリーク像の信号対雑音(S/N)比が向上し,極微弱光信号の計測が可能になる.このようなシンクロスキャンを発展させて2次元的な掃引をおこなう,楕円掃引ストリークカメラや2時間軸掃引ストリークカメラもある54)55)

図23・15はストリークカメラの諸性能を測定するようすを示す49).超短光パルスをエタロンに入射して,減衰率,パルス幅,パルス間隔が一定の光パルス列を作り,これをストリークカメラで計測すると,モニター画面に示すような光パルス列のストリーク像が得られる(時間軸は縦方向).図23・16は,このストリーク像を解析して得られた入射光パルス列の強度の時間波形である.このようなデータから,ストリークカメラの時間分解能,光強度に対する直線性やダイナミックレンジ,信号対雑音比,時間軸の直線性などの主要性能を直ちに読み取ることがずできる49)

図23・15

図23・16

23・3・2 時間分解能

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