18・2・1 固体レーザーにおけるモード同期の概要

[1] モード同期固体レーザーの特徴

モード同期レーザー発振器として用いた場合の,固体レーザーの他の媒体に比べての重要な特徴は,まず,i)約5 fs(Ti3+:サファイアレーザーの場合)に至る極めて短い光パルスが得られることで,これはレーザー発振器から直接得られる最短のパルス幅である.もう一点が,ii)高平均出力・高フルーエンスが得られることといえる.i)に関しては,数psから30 fs秒領域の光パルス光源として用いられていた有機色素に比べて,固体レーザー媒体が耐久性と扱いやすさの面で優れていることもあり,Ti3+:サファイアレーザーをはじめとするいわゆる広帯域波長可変固体レーザーが,モード同期色素レーザーを,この10年ほどの間にほとんど置き換えてしまった.ii)に関しては,ランプ励起Nd3+:YAG等のモード同期レーザーには長い歴史があるが,近年はさらに半導体レーザー励起の技術の進展や,コンパクト高出力なYb3+:ドープレーザーの出現により,ますますパルス幅,出力,両面で性能が向上し,利用範囲も広がっている.

一方では,ファイバーレーザー,半導体レーザーのモード同期技術も発展しており,ピコ秒,サブピコ秒時間領域のパルス光源では,これらの小型レーザーによる通信や計測機器への組み込み応用が進みつつある状況である.比較的大型になる固体レーザーのモード同期においては,特に他のレーザーでは到達が困難な短パルス,あるいは高平均出力,さらに外部での増幅が必要になるがエネルギー蓄積能力を生かした高ピークパワー短パルスの発生と応用,などの技術開発が重点になってきている.

[2] モード同期固体レーザーの方式

固体レーザー発振器では,ほとんどの場合ランプまたは他のレーザーによる光励起が用いられる.フラッシュランプなどによってパルス的に励起し,上順位寿命程度の時間,あるいはQスイッチングによってさらに短時間,過渡的に発振させることも,また,アークランプなどにより連続的に励起し定常的に発振させる連続発振も可能である.このどちらにおいてもモード同期は可能であり,一つのパルスごとのエネルギーはパルス励起のほうが大きくできるのだが,近年はパルスの可干渉性や再現性,安定性に優れていることから連続発振レーザーにおけるモード同期が用いられることが多くなっている.大きなパルスエネルギーが必要な場合には,発振器出力の増幅で対処される.

モード同期を起こさせる方法だが,パルス幅が比較的長い場合(300~30 ps程度)には,共振器内の損失を外部信号で変調する能動的モード同期が良く用いられる.典型的な固体レーザー共振器では,共振器内の光パルスの周回時間(round-trip time)に相当する出力パルスの繰り返し周波数は100 MHz程度となり,1回通過当たりの変調度はそれほど要求されないので,ラマン・ナス回折(Raman-Nath diffraction)仕様による音響光学変調器がよく用いられる.電気光学効果を利用した位相変調器でも可能で,繰り返し周波数を高めにしたい場合などに用いられる29)~31)

さらに短いパルス幅を求める場合,受動的なモード同期を用いるか,能動的モード同期との併用となる32).可飽和吸収(強い光に対して吸収率が低下する性質)性のある色素を用いた受動的な損失変調がパルス励起の固体レーザーには良く用いられた.一方,初期の連続発振モード同期固体レーザーでは,可飽和吸収では自己Qスイッチングの抑制ができず,安定なモード同期パルス列を得るのは困難だったのだが,共振器内の分散を調整して短パルスを維持する技術,非共鳴の非線形屈折率を利用して可飽和吸収と等価な効果を得る技術,などの進展に伴い,近年では連続発振でも受動モード同期が実用になってきている.光非線形を利用したモード同期の方式の詳細は,文献33)などを参照されたい.また,早い吸収回復時間を有する半導体薄膜を用いた可飽和吸収材料も利用されているが,これについては18・2・4[3]で解説する.

以下では,主なモード同期固体レーザーについて媒体ごとに解説するが,各種レーザー媒体の特徴については12章,15章も参照してほしい.

18・2・2 短パルスを特徴とする各種レーザー

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