バイオテクノロジーにおけるフローサイトメトリーとは、 流体の流れの中で細胞を懸濁させ電子検出装置の前を通過させる、レーザまたはインピーダンスに基づく生物物理学的技術である。細胞計数、細胞選別、バイオマーカー検出、タンパク質工学等で使用される。これは、最大で毎秒数千の粒子の物理的および化学的特性の同時マルチパラメトリック分析を可能にする。
フローサイトメトリーは日常的に血液癌などの健康障害の診断に使用される。また、基礎研究、臨床診療や臨床試験等、多くの用途を持っている。よく使われる用途は、粒子を特性に基づいて物理的に並び替え、特定の粒子の集まりを精製することである。

目次
• 1 歴史
o 1.1 技術の名前
• 2 フローサイトメーター
• 3 データ分析
o 3.1 ゲーティング
o 3.2 計算解析
• 4 蛍光活性化細胞選別(FACS)
• 5 ラベル
o 5.1 蛍光ラベル
• 5.1.1 量子ドット
o 5.2 同位体標識
• 6 サイトメトリービーズ配列
• 7 インピーダンスフローサイトメトリー
• 8 測定可能なパラメータ
• 9 アプリケーション

1.歴史

コールター原理を使用した第一のインピーダンスベースのフローサイトメトリー装置はウォーレスH.コールターにより原理が考案され、1953年に特許が米国特許2656508として発行された。今日のフローサイトメーターの前身であるセルソーターはマック・フルワイラーによって発明された。フルワイラーは1965年に「Science」においてこれを発表した。最初の蛍光ベースのフローサイトメトリー装置(ICP11)は、ミュンスター大学のウォルフガング・ジョーデ(Göhde)によって1968年に開発され、1968年12月18日に特許を申請し、1968~9年に ドイツはゲッティンゲンの開発メーカー、パーテック/フュライヴAG(Partec/Phywe AG)によって初の商品化がなされた。その時代ではまだ、蛍光法以上に吸収法が広く科学者たちに愛用されていた。これのすぐ後に開発されたフローサイトメトリー器具には次の物がある。バイオフィジックス・システム・インク (後のオルト・ダイアグノスッティクス) によって開発されたサイトフローグラフ(1971年)、パーテックによって開発されたPAS8000(1973年)、ベクトン・ディッキンソンによる最初のFACS(蛍光活性化細胞選別)器具(1974年)、パーテック/フュライヴのICP22(1975年)、コールターのエピックス(1977~8年)。最初のラベルフリー高周波インピーダンス・フローサイトメーターは特許取得済みの「ラボ・オン・チップ」マイクロ流体、アンフェ Z30に基づいた、アンファシス(2012年)である。

1.1.技術の名前

蛍光ベースのフローサイトメトリー技術の元の名前は、蛍光ベースのフローサイトメトリーの最初の特許出願に基づいて、「パルス細胞光度測定法」(ドイツ語 Impulszytophotometrie)であった。しかし、1976年にペンサコーラ(フロリダ州)で開かれた自動細胞診についての第五回アメリカ・エンジニアリング財団会議において、一般的に「フローサイトメトリー」という名前を使用することが合意され、すぐに広く使われるようになった。1968年の最初の蛍光ベースのフローサイトメーター導入の8年後である。

2.フローサイトメーター

現代のフローサイトメーターは、”リアルタイム”に、毎秒数千の粒子を分析し、能動的に分離し、指定された特性を有する粒子を隔離することができる。フローサイトメーターは顕微鏡に似ているが、違いとして、細胞の画像を表示する代わりに、フローサイトメトリーは設定したパラメータを持つ(多数の)細胞の「高スループット」自動定量化を表示する。固形組織を分析するためには、単一細胞懸濁液を準備する必要がある。
フローサイトメーターは、次の5つの主要コンポーネントで構成されている。

  • フローセル:

細胞を感知用の光ビームを一列で通すための、細胞を運び整列させる液流(流体シース)

  • 測定システム:

一般的に使用されるのはインピーダンス(または導電率)測定および光学系である。光信号が得られる、ランプ(水銀、キセノン)、高出力水冷式レーザ(アルゴン、クリプトン、色素レーザ)、低消出力空冷レーザ(アルゴン(488 nm)、赤HeNe(633nm)、緑HeNe、HECD(UV))、ダイオードレーザ(青、緑、赤、紫)などがある

  • 検出器およびアナログ・デジタル変換(ADC)システム:

前方散乱光のアナログ測定値(FSC)、側方散乱光(SSC)、そして色素固有の蛍光シグナル、をバイナリコンピュータで処理可能なデジタル信号に変換する装置。

  • 増幅システム

線形または対数

  • 信号の解析のためのコンピュータ

フローサイトメーターを用いてサンプルからデータを収集するプロセスは、「取得」と呼ばれる。取得は、フローサイトメーターに物理的に接続されたコンピュータ、およびサイトメータのデジタルインタフェースを扱うソフトウェアによって処理される。ソフトウェアは、取得するサンプルを識別するパラメータ(電圧、補償等)を調整することが可能である。また、パラメータが正しく設定されていることを確認するために、最初のサンプル情報をサンプルデータ取得と同時に表示することができる。初期のフローサイトメーターは、一般的には実験装置であった。しかし、技術の進歩により臨床と研究、両方の様々な目的で使用することが可能になった。これらの進歩により、計装、解析ソフトウェア、取得に使用される蛍光標識された抗体試薬等、かなりの市場が発展した。現代の器具は通常、複数のレーザと蛍光検出器を持っている。商用器具での現在の記録がレーザ10台と蛍光検出器が18台である。レーザおよび検出器の数を増やすと、複数の抗体標識を可能にし、表現型マーカーにより、さらに正確に目的の細胞を識別することができる。特定の器具では個々の細胞のデジタル画像を撮影することができ、これにより細胞表面上もしくは内側の蛍光シグナルの場所を分析することができる。データ分析3つの異なる母集団を示す、光合成ピコプランクトンの海洋試料のフローサイトメトリー分析(プロクロロコッカス、シネココッカス、およびピコエルカロイト)

3.データ分析

3.1.ゲーティング

フローサイトメーターによって生成されたデータは、一次元でプロットしヒストグラムを生成することができる。また、二次元ドットプロットあるいは三次元でもプロットできる。これらのプロット上の領域を順次蛍光強度に基づいて、サブセット抽出の作成することによって分離することができ、これは「ゲート」と称される。特定のゲーティングプロトコルは、特に血液学において、診断および臨床目的のために使用される。
プロットは、多くの場合、対数スケールで作られる。異なる蛍光色素の発光スペクトルが重なるため、検出器の信号は、計算的な補償だけでなく電子的な補償も必要となる。フローサイトメーターを使用して蓄積されたデータはソフトウェアを用いて分析する。例として以下の物がある。データが収集された後、フローサイトメーターに接続したままにする必要は無く、ほとんどの場合において分析は別のコンピュータ上で実行される。これは、これらのマシンを使用する需要が多くある中核施設では特に重要である。

3.2.計算解析

計算を用いて、自動化された集団の識別に関する最近の進歩は、従来のゲーティング手段の代替を示す事になった。自動化された識別システムは潜在的に、稀で隠された集団の調査結果を助けることができる可能性がある。代表的な自動識別方法として以下のものが挙げられる、FLOCKでの免疫学のデータベースと分析ポータル(ImmPort)、SamSPECTRALとflowClustでのバイオコンダクター、そして、FLAMEでの遺伝子パターン。共同開発はFlowCAP (フローサイトメトリー:集団識別方法の重要なアセスメント)というオープンプロジェクトへと発展した。このプロジェクトは、フローサイトメトリークラスタリング法によって得られたデータを客観的に比較する方法を提供し、これらの適切な使用および適用に関する指針を確立することが目的である。

4.蛍光活性化細胞選別(FACS)

蛍光活性化細胞選別(FACS)は、特殊なフローサイトメトリーの一種である。これは各細胞の光散乱および蛍光特性に基づいて、生物細胞の異種混合物を一度に一つずつ、細胞を二つ以上の容器中に仕分けることができる。個々の細胞の蛍光シグナルの高速で客観的かつ定量的な記録を提供しながら、目的の細胞を物理的に分離することができる便利な科学機器である。この技術はFACSという用語を広めたレン・ヘルツベルグによって発展した。ヘルツベルグはフローサイトメトリーに関する彼の独創的な研究で2006年に京都賞を受賞した。細胞懸濁液は狭く急速に流動する液体の中心に取り込まれる。液体は細胞の直径にたいして細胞同士が大きく離れるように配置され、振動機構が個々の液滴に侵入する細胞の流れを引き起こす。システムは1滴あたり2つ以上の細胞が入る確率が低くなるように設定する。流れが液滴になる直前に、流れは目的の各細胞の蛍光特性を測定する蛍光測定ステーションを通過する。帯電リングはちょうど流れが液滴になる地点に配置されている。電荷は、蛍光強度が測定される直前にリング上に配置されており、液滴が流れから離れる際に反対の電荷が液滴に捕捉される。帯電した液滴はその後、静電偏向システムに落ち、その電荷に基づいて容器に液滴を誘導する。いくつかのシステムでは、電荷が流れに直接適用し、切り離す液滴は流れと同じ符号の電荷を保持する。流れ自体は液滴が落ちた後に、中性に戻る。
頭字語FACSは、ベクトン・ディッキンソン株式会社が商標および所有している。選別や分析のためにこの技術を使用する研究者の大多数の中で、コピーを表すゼロックス(Xerox)や顔の組織を表すクリネックス(Kleenex)のように、この用語は一般的になっている。

5.ラベル

5.1.蛍光ラベル

多くのフルオロフォアがフローサイトメトリーのラベルとして使用できる。フルオロフォア、または単に「蛍光体」は、一般的には、細胞上または細胞中の対象物を認識する抗体に結合される。蛍光体はまた、細胞膜または他の細胞構造に対する親和性を有する化学物質に結合されてもよい。各フルオロフォアは、特徴的なピーク励起及び発光波長を有し、発光スペクトルはしばしば重複する。このため、使用することができる標識の組み合わせは、蛍光色素を励起するために使用されるランプやレーザの波長、利用可能な検出器に依存する。識別可能な蛍光標識の最大数は、17または18であると考えられているが、このレベルの複雑さは、成果物を制限するための面倒な最適化と、重ね合わされたスペクトルを分離するための複雑な逆重畳アルゴリズムを必要とする。フローサイトメトリーは定量的なツールとして蛍光体を使用する。フローサイトメトリーの最大感度は、共焦点顕微鏡などの他の蛍光検出プラットフォームの追随を許さない。一般的に、絶対的な蛍光感度は共焦点顕微鏡では低くなる。これは焦点の外の信号は、共焦点光学系によって拒絶されており、また、画像は細胞全体のあらゆる場所から個々の測定地点で連続的に構築されているので、信号を収集するために利用可能な時間を減少させるためである。

5.1.1.量子ドット

量子ドットはその狭い発光ピークのため、しばしば従来の蛍光体の代わりに使用される。

5.2.同位体標識

マスサイトメトリーは抗体に結合したランタニド同位体を利用することで、蛍光標識の制限を克服する。この方法を用いることで理論上40〜60の識別可能な標識の使用が可能で、現在30の標識の使用が実証されている。マスサイトメトリーは、フローサイトメトリーとは根本的に異なる。細胞は、プラズマ中に導入、イオン化され、関連する同位体は飛行時間型質量分析を介して定量される。この方法は、多くの標識の使用を可能にするが、現在、フローサイトメトリーよりも低い処理能力しか有していない。また、マスサイトメトリーは分析した細胞を破壊し、ソートすることによる回収は不可能である。

6.サイトメトリービーズ配列

標識蛍光抗体を介して個々の細胞を測定するだけでなく、サイトカイン、タンパク質、および他の細胞産物もまた同様に測定することができる。ELISAサンドイッチアッセイと同様に、サイトメトリービーズ配列(CBA)分析は、単一の分析で複数の分析物を区別するために蛍光強度の大きさとレベルで区別された、複数のビーズ集団を使用する。捕捉された分析物の量は、タンパク質の二次エピトープに対するビオチン化抗体と、それに続くストレプトアビジンR-フィコエリトリン処理を介して、検出される。ビーズ上のR-フィコエリトリンの蛍光強度は488 nm励起源を装備したフローサイトメーターによって定量化される。サンプル中の関心対象のタンパク質の濃度は、蛍光シグナルを連続希釈から作成した標準曲線のものと、分析物の既知濃度とを比較することで求めることができる。他に、サイトカインビーズ配列(CBA)とも呼ばれる。

7.インピーダンスフローサイトメトリー

インピーダンスに基づく単一細胞分析システムは、コールターカウンターと呼ばれる。
これらはどのような種類の細胞や粒子でも計数とサイジングを行うことができる確立された方法によって行われる。このラベルフリー技術は、最近「ラボ・オン・チップ」に基づくアプローチと、静的直流電流(DC)や低周波交流電界の代わりに、無線周波数範囲内(100キロヘルツ〜30メガヘルツ)に高周波交流電流(AC)を印加することによって開発が進んだ。この特許技術は、高精度な細胞分析を可能にし、膜容量および生存率などの追加情報を計測することができる。その比較的小さなサイズと堅牢性は、現場でのバッテリ駆動使用を可能とする。

8.測定可能なパラメータ

これは多数あり、現在も増え続けている。
•アポトーシス(定量、DNA分解、ミトコンドリア膜電位、浸透性の変化、カスパーゼ活性の測定)
•細胞接着(病原体の宿主細胞接着等)
•細胞ピグメント(クロロフィルまたはフィコエリトリン)
•細胞表面抗原(表面抗原分類(CD)マーカー)
•細胞の生存率
•癌細胞における多剤耐性(MDR)の特徴
•染色体分析と並べ替え(ライブラリーの構築、染色体塗料)
•DNAコピー数の変化(フローFISHまたはBACオン・ビーズ技術)
•酵素活性
•グルタチオン
•細胞内抗原(様々なサイトカイン、二次メディエーター等)
•膜流動性
•細胞の透過処理電子の監視
•核抗原
•酸化バースト
•pH、細胞内のイオン化カルシウム、マグネシウム、膜電位
•タンパク質の発現と局在性
•タンパク質修飾、リン酸化タンパク質
•光の散乱によって細胞または他の粒子の、(前方散乱によって)量を、(側方散乱によって)形態学的な複雑さを、非蛍光であっても測定することができる。従来これらは、それぞれFSCとSSCと略称される。
•DNAの全特性(細胞周期分析、細胞動態、増殖、倍数性、異数性、核内倍加、等)
•RNAの全特性
•ビボでのトランスジェニック生成物。特に、緑色蛍光タンパク質または関連蛍光タンパク質
•上記の組み合わせ(DNAと表面抗原、等)

9.アプリケーション

この技術は、分子生物学、病理学、免疫学、植物生物学、海洋生物学など、様々な分野で活用できる。また、医学で幅広い用途を有する(特に移植、血液学、腫瘍免疫学および化学療法、出生前診断、遺伝学、精子の識別による性別の事前選択など)。また、それは広くDNA損傷、カスパーゼ切断、アポトーシスの検出の研究に使用されている。海洋生物学では、光合成プランクトンの自己蛍光特性はフローサイトメトリーによって、数の豊富さと群集構造を解析するのに利用することができる。タンパク質工学では、 フローサイトメトリーは酵母ディスプレイおよび細菌ディスプレイと共に、細胞表面に表示された目的の特性を有するタンパク質変異体を同定するために使用される。

参考文献

「フローサイトメトリー」のメーカー

 

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