誘導ラマン散乱(SRS:StimulatedRamanScattering)[1,2]、は、非線形媒質にある閾値(ラマン閾値)を超えるような強いポンプ光(入射光)が入射されると、ストークス光と呼ばれるより低い周波数を持つ成分が急に成長し、ポンプエネルギーの大部分がストークス光になる現象を言う。このポンプ光とストークス光の周波数差はラマンシフトまたはストークスシフトと呼ばれる。SRSはラマン増幅器や、ファイバーラマンレーザーを機能させる重要な非線形過程である。

波長1064nmに対するラマンシフトは約52nmである(波長1064nmのポンプ光によるラマン利得が最大になるのは116nm)。量子力学的記述では、ラマン散乱はポンプ光子が低周波数の光子と分子の振動モードのフォノンに変換される低周波変換過程と考えることができる。フォノンがポンプ光と結合してポンプ光より周波数の高い光子が発生する高周波変換も可能であるが、この変換に適するエネルギーと運動量を持つフォノンの存在が必要なため、実際にはほとんど起こらない。この周波数が高くなった方の光子はアンチストークス光(反ストークス光)と呼ばれ、ストークス光の周波数sp−Ωに対して、周波数ωap+Ωに発生する。

ストークス光とアンチストークス光の発生原理

図1:ストークス光とアンチストークス光の発生原理

図1はストークス光とアンチストークス光の発生原理を簡単に説明したものである。ストークス光とは、振動基底状態にある格子が光によって中間状態に遷移し、その後に振動励起状態に戻るとき発生する。一方、アンチストークス光とは、格子が熱的に励起されている場合などに、振動の励起状態から遷移して基底状態に戻るときに発生する。

アンチストークス光が発生するとき、ωsp−Ω、ωap+Ωより2ωpasであるので、運動量が保存されるとポンプ光2光子が消滅してストークス光1光子とアンチストークス光1光子が発生する四光波混合(FWM)過程が起きる。この運動量保存の条件が位相整合条件Δk=2kp−ka−kx=0であり、これが満たされないとFWMは起こらない。

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