光線力学療法、レーザーによる新しい癌治療

日本における死亡率の第1位は悪性腫瘍、所謂「癌」だ。罹患数・死亡数は高齢化に伴って増加傾向にある。高齢化の影響を排除した年齢調整率から見ると、死亡率は1990年代を境に減少傾向、反して罹患率は1980年代以降に増加している。生存率に関しては、発症部位に関係なく上昇している。
一昔前よりも治癒率が上がったとはいえ、その治療法の約7割は外科手術であり、他に行われる放射線治療、抗癌剤治療のどれもが術後の痛みや副作用による患者への負担が大きなものだ。
治療に際し、患者への負担は少ない程良いのは当然だ。そこで新たに取り入れられているのが光線力学療法(Photodynamic therapy: PDT)である。


 図1

光線力学療法は、レーザー光に反応して蛍光する、主要組織に親和性があり、癌細胞に集まりやすく且つ癌細胞を殺す性質を持った光感受性物質を事前に静脈に注射しておき、正常細胞から抜けたところを見計らって腫瘍組織にレーザー光を照射し、光の励起により発生する一重項酸素の強い細胞破壊効果を利用した治療法だ。光感受性物質がレーザーにより暴露されることで、光エネルギーを吸収して励起状態となる。これが基底状態に移行する際に発生する活性酸素が細胞を壊死させていると考えられている。
代表的な光感受性物質であるポルフィリンは、静脈注射後約48時間後にレーザーを照射することが適当とされている。また630nmのエキシマレーザーが使用されることが多いが(深さ1mm未満の浅い位置にある患部には410nmのレーザーを使用)、光感受性物質を励起するエネルギーがあれば光源自体は何を使用しても問題は無い。


 図2

この治療法は、患部を切除する必要が無く、臓器等の温存に優れ、侵襲の少ない治療法として注目を集めており、特に早期で転移が見られない場合の治癒率は高い。他にも、手術前の病巣縮小や、進行性癌患者の先進状態の改善や手術が不可能な際の緩和にも使われている。
増加している高齢癌患者への治療にも効果を発揮することが期待されると共に、初期の子宮頸癌への治療法としても非常に有効で、外科手術等と異なり子宮頚部に大きな損傷を与えることが無く治癒率も高い為、術後の妊娠出産に支障が無く、特に若年の罹患率が増加傾向にある中で、大いに注目を集めている。
他に、早期肺癌、表在性食道癌、表在性早期胃癌、科学放射線療法又は放射線療法後の局所遺残再発食道癌が保険適用の認可を受け治療が行われており、2014年には世界初となる悪性脳腫瘍に対する認可を取得し、保険適用内で治療を受けることが可能となった。
皮膚疾患に対しても有効であり、表在性皮膚悪性腫瘍による日光角化症、表在型基底細胞癌、ホーエン病、身近なところではニキビ治療にも効果的なことが分かっている。瘢痕は少なく美容的にも優れており、特に顔面と頭部に関しては治癒率も高い。免疫調節効果や抗菌作用もあるとされておりこの先大いに期待される治療法ではあるが、現在のところは保険適用外となってしまっている。
全身への中毒作用が無く繰り返しての治療が可能で、化学療法や放射線療法との併用も問題が無い光線力学療法だが、注意点もあり、光感受性物質は当然のことながら光に反応する為、投与後は光線過敏症(光の照射によって火傷、紅斑、水泡等が生じる)を起こす可能性が高く、投与後から術後数日は十分な注意が必要となっている。

現在は主に早期癌の治療法に有効とされている光線力学療法だが、進行性癌に対しても効果を発揮できるよう研究が進められており、そう遠くない日に、「癌治療には苦痛と負担が伴うもの」という認識を変えることが出来る日が来るのかもしれない。

参考
*DOJIN NEWS
http://www.dojindo.co.jp/letterj/132/topic/01.html

*日本光線力学学会
http://square.umin.ac.jp/jpa/whatPDT.html

*http://www.gansupport.jp/img/cc_02/ysc01/08.gif(図1)

*東京医科大学病院
http://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/news/release/20140402.html(図2)

*国立がん研究センター
http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/annual.html

「執筆者:株式会社光響 緒方」