ヘッドライトの変遷。LEDからレーザーへ

世界初の自動車の誕生は1769年のフランス。ニコラ・ジョセフ・キュニョーという人物によって生み出された。それは、蒸気機関で走る大砲運搬用の車だった。(因みに、「交通事故を起こした最初の自動車」でもある)。1777年には電池式電気自動車が、次いで1823年にはモーター式電気自動車が発明され、イギリスでは1873年の電気式4輪トラックが実用化されている。意外な事にガソリン車よりも電気自動車の開発の方が早かったのだ。

 図1

そして、ついに1885年、ドイツのゴットリープ・ダイムラーが4ストロークエンジンを開発し木製の2輪車での試走に成功、翌年に4輪車を開発。1886年にドイツ人カール・ベンツがガソリンエンジンの3輪車を開発・販売。そう、あの有名企業の創業者達である。我々に馴染みの深い自動車が誕生したのだ。
この数年後、1890年頃に車のヘッドライトが取り付けられた、と言われている。アセチレンランプの丸いヘッドライトだった。
それから100年以上が経過し、ヘッドライトも自動車性能の発展に伴って進化と変化を続けてきた。

石油ランプからアセチレンランプへ、そこからフィラメントを使用した白熱電球に変わり、次いでハロゲンへ、1990年代にはHIDが登場した。この過程で自動車のヘッドライトはただ単に夜道を照らす物から、より明るく、より白く、という変遷を遂げている。そして21世紀に入り、青色LEDの開発成功により、白色LEDが可能となり、2007年にLEDヘッドライトを搭載した自動車の量産が開始されている。
そして今、新たに注目を集めているのがレーザーヘッドライトである。2014年、アウディが世界で初めてハイビームにレーザースポット技術を搭載し大きな話題となった。

自動車技術の進化と共に走行スピードも大幅に増してきた。それに伴い交通事故のリスクも高まっている。殊に夜間の歩行者死亡事故リスクは高い。走行スピードが速ければ速いほど停止するまでにかかる時間も距離も当然長くなる。その為、夜間、如何に遠くまで照らし素早い前方視認を可能にするかは、常に重要な課題の一つとして考えられてきた。
レーザーヘッドライトは、その前方視認性向上への大きな貢献が期待されるとして大きな注目を集めている。
レーザー光源をハイビーム(走行ビーム)に使用することで、従来のライトと比較して約2倍、ロービーム(すれ違いビーム)に使用しても約1.5倍の照射距離を得ることが可能となる。

 図2

BMWのi8や7シリーズでは既存のLEDライトに、短波長で拡散しにくく直進性の高いレーザー光を用いたレーザーライト技術を融合させ、照射可能距離を従来の2倍、明るさで5倍という性能を実現させている。
前述したアウディも、2014年、量産車としては世界初となるレーザーヘッドライト搭載車となったR8 LMXを発売。こちらもオールLEDヘッドライトの2倍の照射範囲を実現している。片側のヘッドライトに、4つのハイパワーレーザーダイオードで構成されるレーザーモジュールが1つ搭載されており、径300ミクロンのレーザーダイオードが450ナノメートルの波長の青いレーザービームを発する。これを蛍光体コンバーターが路面照射に適した色温度5,500ケルビンの白色灯に変換するという仕組で、車速60km/時以上で作動するように設定されている。また搭載されたカメラのセンサーが対向車を認識することで、相手に強い光を照射しないようにするシステムも組み込まれている。

自動車のヘッドライトにレーザーを組み込むメリットは、輝度や照射範囲の拡大だけではない。自動車を購入する時に性能の良し悪しを考慮するのは当然だが、それ「だけ」では選ばない。多くの人が思うのではないだろうか?「どうせ乗るなら、見た目にだってこだわりたい!」
レーザーを発生させるレーザーダイオードはLEDダイオードのサイズの1/10程度しかない。その小ささで照射距離2倍、輝度5倍。つまり発光が弱まるという懸念なしに、ヘッドライトの更なる小型化が進められるということだ。それによってフロントマスクのデザインの幅は大きく広がる。フロントマスクは正に自動車の顔だ。各社様々こだわりを持って考案されているはずだが、そその自由度が増すというのは大きなメリットとなるだろう。極近い将来に、今までになく斬新な「顔」の自動車を見ることができるかもしれない。

照射範囲・輝度の拡大、デザイン性の向上、更にはLEDよりも更に30%の省エネを達成する等の現在の状況を見て、おそらくこれから益々の発展を遂げていく分野だということは間違いないだろう。
まだ新しいシステムであるだけに、LEDと比較した場合の、効率、温度特性耐久性、安全性、価格等残された問題も数多い。特にヘッドライトの置かれている環境から、周囲温度が80℃以上となる場合の効率維持・寿命保証は大きな課題の一つと言えるだろう。しかしこれが解決されれば、現在は限定的な使用に留まっているレーザーヘッドライトが、新たな一歩を踏み出す分岐点になるだろうと期待されている。

参考

*GAZOO
https://gazoo.com/car/history/Pages/car_history_001.aspx

*FUTURUS
http://nge.jp/2015/09/13/post-116879/2

*日経テクノロジーオンライン
http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/feature/15/367653/102100014/?rt=nocnt&d=1488849530593

*照明学会誌 第100巻5号(照明学会機関紙)

*照明学会ホームページ
http://www.ieij.or.jp/

*CASA
http://jp.autoblog.com/2014/05/11/audi-to-launch-the-r8-lmx/

*CLUB CARS-BMW
https://clubmini.jp/16368(図1、2)

「執筆者:株式会社光響 緒方」