1・1・1 メーザーの発明1)2)

メーザーとは,誘導放出によるマイクロ波増幅という意味の英語,microwave amplification by stimulatedemission of radiationの頭文字を集めて作られた頭字詰である.分子のマイクロ波スペクトルを研究していたコロンビア大学のTownesは,1951年,アンモニア分子の二つの準位を使ってメーザーを作る方法を思いついた.この着想は,アンモニア分子のビームを不均一電界に通して上の準位の分子を選択的に集めて空洞共振器に入れることによって,空洞共振器の中のマイクロ波を増幅しようというものであった.

熱平衡状態では,下の準位にある分子数が多く,上の準位にある分子数はそれより少ないので,2準位間の遷移に共鳴する周波数のマイクロ波は吸収され,誘導放出はそれより弱い.もしも,上の準位の分子数が下の準位より多ければ,正味の誘導放出が起こることになる.しかし上の準位の分子数が下の準位より多い状態は,熱平衡に反する反転分布であって負温度状態に相当する.したがって,Townesらがメーザーを作ろうとする実験を始めたとき,熱力学の原理に反するようなメーザーは原理的に不可能だから,むだな研究であるという意見が少なくなかった.それにもかかわらず研究は進められたが,実験技術の困難もあって,ようやく3年後の1954年にアンモニア分子線メーザーは周波数約24 GHzの発振に成功した3)

これは最初,分子発振器と呼ばれたが,反転分布による誘導放出は発振器だけでなく,増幅器にも,分光器などにも利用できるので,1955年以来,メーザーと呼ばれるようになったのである.当時,ソ連ではBasovとProkhorovがCsFの分子ビームを用いてメーザーを作ろうとしていたが,発振しないでいたときTownesの成功を知り,すぐにアンモニアに切り替えて発振に成功した.彼らは独立にメーザーの着想を得て実験していたので,1964年度のノーベル物理学賞を共同受賞することになった.

1・1・2 メーザーの特徴

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